高校駅伝で鉄剤注射の記事を考える

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「高校駅伝で鉄剤注射」の記事を考える

貧血治療用の鉄剤注射を駅伝選手に

平成30年12月9日、読売新聞の朝刊第1面に「高校駅伝で鉄剤注射-一部強豪校「悪影響」警告後も-陸連、検査義務化」の見出しで鉄剤注射に関する記事が掲載されました。記事によると、「日本陸上競技連盟が2016年4月から、「鉄分が内臓に蓄積し体に悪影響がある」として使わないよう警告している貧血治療用の鉄剤注射を、高校駅伝の一部強豪校が警告後も使っていたことが関係者への取材でわかった。これらの高校は使用をやめたというが、陸連は他でも使われている可能性があるとして、陸連主催の全国高校駅伝大会(23日)で改めて警告し、来年の同大会からは出場選手に血液検査結果の報告を義務付ける方針だ。-読売新聞12月9日記事引用」ということです。新聞では、さらに関連記事として、大学で競技を続ける女子選手と社会人選手の2人の証言を掲載しています。それによると監督の指示で、多い月で3回打つとか3日に1回打っていたとかの衝撃の事実が記されています。

鉄分はどんな役割があるのか

鉄は血液の重要な要素です。「ヘモグロビン」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。ヘモグロビンは「ヘム鉄」と「グロビン」からなり、このヘム鉄というのが鉄分のことです。ヘモグロビンは酸素と結びつき、全身の組織に酸素を運搬するという重要な役目を担っています。ですので、鉄分が不足すると体は酸素不足に陥り、頭痛がしたり、疲れやすくなったりします。また、心臓は体の酸素不足を補うためにフル稼働しますので、動悸や息切れにもつながります。このことから、酸素をうまく運べなくなる鉄分不足はアスリートに取っては致命的な訳です。

なぜ駅伝選手に鉄剤注射なのか

では、なぜ女子陸上選手に鉄剤注射なのでしょうか。女性は月経による出血で血液を失うので男性より多く血液が必要です。しかもマラソンや駅伝、サッカー、バレーボール、バスケットボールなどの競技は足底が地面に何度もたたき付けられているので、毛細血管が潰れて血液が壊れやすい条件下にあります。実際、長距離陸上選手の4人に1人は、鉄欠乏性貧血(運動性溶血性貧血)であったという調査もあります。そこで貧血を起こさないように、壊される分を補う形で鉄分を摂取することが重要になります。記事の選手は鉄剤注射によって記録が伸びたとも証言しています。これは、鉄剤にドーピングのような効果がある訳では無く、十分な鉄分の補給によって、ヘモグロビンが増え酸素を身体中に運びやすくなったため、記録にも良い結果をもたらしたものでしょう。ただ問題は、鉄剤の過剰投与です。必要以上に体内に入った鉄は尿などで排出されるという訳ではなく、肝臓や心臓などの臓器に蓄積されます。その結果、肝硬変や心不全などの重篤な臓器障害を引き起こすこともあるようです。

正しい知識は自分を守る

この鉄剤注射の記事で驚くことは、医師の役割でしょう。注射ですので監督の指示があっても医師の処方がなければ不可能です。そして鉄不足かどうかの判断は血液検査でわかりますし、飲み薬で改善できない重篤な状態だと判断した場合のみに注射を行うという知識もあるはずです。また、鉄分の過剰摂取がもたらす弊害も理解しているはずです。それを安易に投与する医師がいることでこの問題が起こっています。将来のある高校生にチームの成績の為に鉄剤注射を選択した監督やそれに協力した医師。大人の無責任な行動が子ども達を苦しめる悲しい事件だと思います。ところで、今回の記事は鉄剤注射でしたが、鉄分を補うサプリメントも簡単に手に入れることができます。注射ほどの吸収量はないものの、過剰摂取に陥らない訳ではありません。栄養素は食品から体内に取り入れることを基本として、サプリメントなどを摂取する場合は正しい知識が不可欠でしょう。

参考:日本陸上連盟が鉄の過剰摂取の危険性を問題提起し作成した「アスリートの貧血対処7か条Aアスリートの貧血対処7か条B